明日には忘れるなにかについて

天野くにひろのブログです

なりたいあの子になれない君へ〜その2〜

俺の親父と俺の間にある、マリアナ海溝チャレンジャー海淵級に深い溝については以前の記事『なりたいあの子になれない君へ』(https://kuniama.hatenablog.com/entry/2019/11/17/220039)で説明させていただいたと思う。

 

様々な事情と事件と感情がもつれた結果、俺は実家を家出同然に飛び出した。あの日から今日で1年2ヶ月目。だいぶ時間を割いてコツコツ作業ができるようにはなってきたが、未だに絵が完成する前にしまいこんでしまう日々が続いている。

 

代わりに本を読むようになった。最近は和図書なら近代、洋図書なら古典を読むのが好きだ。今はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の第4巻を読み進めている。

 

話が変わるが、今年もそろそろクリスマスがやってくる。天野家には仲が悪いくせに家族間でクリスマスプレゼントを交換する習慣があった。去年は家出をしてすぐにクリスマスだったので、そのイベントには参加しなかった。

 

しかし今年は母親と和解することができたので、一応はこのイベントに復帰することになった。そこで問題なのが親父へのプレゼントである。

 

彼は物を大切にできないたちなので、何を与えても全て部屋の片隅に積み上げてホコリまみれにするか、身につける物なら酔ってすぐにどこかで失くしてきてしまう。食べ物は冷蔵庫の中に入れたまま腐らせる。ろくでもない。

 

しかし俺は、親父がないがしろにできないものがひとつだけあることに気がついた。

 

そう、彼の狂信する画家の、彼の祖父の絵だ。

 

彼の祖父の没後に個展が開かれ、その時に画集が発行されている。当時の親父はその個展に事情があってか足を運んでいない。

 

俺は彼の祖父の絵は持っていないが、その際に発行された画集の入手には成功している。それを彼のクリスマスプレゼントにすることにした。

 

君がその画集を大切に扱って、大切に保管して、大切な思いを誰かと共有すれば、亡きあの画家の太く長い人生は消えない。いつものプレゼントのように雑に扱ってくれるなよ。手に入れるのにとても苦労したのだから。

 

俺は親父の最愛の家族にも、応援してもらえるような画家にも、一流企業の勤め人にもなれなかった。そんな俺からの、せめてものプレゼントだ。

 

君が世界で一番愛する画家の、世界で一番愛する家族のひとりの、おそらく最後の発行となるであろう画集だ。大事にしてくれ。