明日には忘れるなにかについて

天野くにひろのブログです

嗜みたい、好みたい

『コーヒー飲んでタバコも吸う奴は口臭がうんこと同じくらいくさい』と言い出したのはどこの誰だっただろう。

 

プルームテックで自宅内を燻製器の中ばりに煙たくしながら読書をしていると、恋人もどきが缶コーヒーを片手に入ってきた。

 

「うわぁ、部屋ん中が真っ白だ」

 

「換気したいんだけど、足が硬まってしまって立ち上がれない」

 

恋人もどきは通気口とベランダへの窓を全開にして、深呼吸を始めた。お前、さっきまで外にいただろう。

 

「ねぇ、コーヒー飲んでタバコも吸う奴は口臭がうんこと同じくらいヤバイって話知ってる?」

 

「…聞いたことある」

 

「…俺コーヒーもタバコも好きなんだけど、口臭ヤバかったりする?」

 

「全然大丈夫だぞ」

 

それなら良かったと言う言葉と同時に、缶コーヒーのプルタブを上げる音がした。

 

読んでいたマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』に、しおりを挟んで閉じた。顔を上げると恋人もどきがこちらを見つめている。

 

「コーヒーを飲む俺と、タバコを吸う邦宏」

 

「二人揃ったら『口臭うんこマ〜ン♪』だな」

 

楽天カードマンみたいに言うのやめて」

 

「『6倍じゃなくて6分の1』ってなんの歌詞だっけ?」

 

おそ松さんじゃなかったっけ?」

 

「じゃあ俺たちは『2倍じゃなくて2分の1』だな」

 

果たしてこの会話、全開の通気口とベランダからどこまで聞こえているのだろう。今更心配したところで後の祭りだが、文面に書き起こしながら少々心配になる俺であった。

 

「この理屈でいくと、俺とくにひろがキスをしたらうんこのにおいが発生するってこと?」

 

「やめて!?」

 

恋人もどきがキスの話題を出す時は大抵キスがしたい時なので、軽く唇を合わせた。UCCの無糖コーヒーの味がして、コーヒーの苦味が苦手な俺は少し渋い顔をしたと思う。しかしすぐ前にかがむ恋人もどきは満足そうにニカニカと笑っていた。